超個人的漫画批評

Hello Manga Lovers all over the world, 漫画と共に歩んできた三十数年。 漫画喫茶に20代の全てを注ぎ込み、漫画こそが最高の娯楽だと信じてきた。 少年少女青年、昭和平成、時代もジャンルも問わずに読み続けてきた。 自身を形成しているのは漫画と言っても過言ではない。 そんな人生に少し後悔もあるが、、、此の先に在る奇跡を目指し、超個人的漫画批評、はじめよう、、 さぁ 、行こうか。

最強伝説 黒沢(60点)

最強伝説 黒沢(60点)

作者 福本伸行

ビッグコミックオリジナル 全11巻

 

この漫画に出会ってしまったせいで、私はあるものを失ってしまったと確信している。それは、、、

 

「感動などないっ…!」

 

感動だ。冒頭の黒沢のこの叫び。とてつもないインパクトだ。普通の人なら、流して読んでしまうかもしれないが、私にはそれが出来なかった。この漫画に出会う以前は、スポーツ観戦が私の趣味の一つだった。何も考えず、ただその試合に没頭することができた。ワールドカップやベースボールクラシックの時期などは、そわそわしたものだ。しかし、この漫画に出会ってしまったせいで、私の価値観の歯車がほんの少し狂ってしまったのだ。スポーツ観戦自体を全く楽しめない、というわけではないのだが、この黒沢の冒頭の言葉が頭の片隅に常にあるのだ。ちょっと試合に集中し始めたり、興奮のレベルが上がってくると、この言葉が顔を出す。「感動などないっ…!」強烈すぎるこの言葉。一生この言葉を振り払う事は出来ないのだろうか。そのくらい、この冒頭の破壊力は凄まじいものがあったのだ。サッカーの試合の絵面が妙な温度感で、それがまたリアリティを助長している。並みの精神力しか持たない中年独身男性が、もし少しでもこのシーンに共感してしまったらなら、冒頭の10ページを読んだだけで、涙する事だろう。仲間や友達と大騒ぎしながら、サッカーなどを頻繁にみている方に聞いてみたい。本当に心の底から楽しんでいるのか?無理していないのか?そんな方には、黒沢の言葉を思い出して欲しい。「他人事じゃないか…!いったい……いつまで続けるつもりなんだ…?こんな事を…!」

 

福本作品といえば、異常なほど魅力的な食事でも有名だが(カイジのビール、焼き鳥など)、この最強伝説 黒沢でもそれは遺憾なく発揮されている。

 

冒頭の某居酒屋での、なんこつ揚げをつまみながらビールを飲みたくなった読者も多いのではないだろうか。前述のカイジのシーンほど、強烈にその食事を強調しているわけでは無いのだが、自然に読者の懐に入ってくるところが、流石福本先生の力量といったところだろうか。

 

有名な、アジフライのシーンだが、私はこの漫画を読んだその夜にアジフライを買いに近所の総菜屋に走った。

 

物語が進むにつれ、黒沢はそれなりに頼もしくもなっていき、男らしさも見せるのだが、それに反して周りの登場人物が圧倒的にカスで頭が悪いので、見ていてとてもイライラする。しかし、物語中の数々の名言たちがそれをカバーする形で60点という点数に落ち着いた。終わり方に関しては、このエンディングを決定する中で起こったであろう、大人の嫌らしいやり取りを簡単に感じる事ができ(数々の福本作品に見受けられる[業界語で打ち切り])、ノーコメントとしか言いようがない。